【佐藤選手インタビュー】祝!銀メダル獲得
先日のパリオリンピックの近代五種競技にて佐藤大宗選手(自衛隊体育学校)が
銀メダルを獲得しました。佐藤大宗選手おめでとうございます。
今回は、帰国したばかりのお忙しいタイミングでしたが、貴重なお時間をいただき、
インタビューをさせていただきましたので、その様子を掲載させていただきます。
- まずは銀メダル獲得おめでとうございます。
ご帰国されて2日というタイミングですが、現在のお気持ちはいかがですか。
「最高」という言葉が最初に出てきます。
帰国した今は、家族、監督、コーチ、トレーナーさんなど、本当に色んな方々に支えて頂いたことが日本人初のメダル獲得に繋がったんだなと実感しています。
家族には会えたんですが、両親にはまだ会えていなくて。
また所属している体育学校が現在休暇中ということもあり、まだ会えていない人が多いので、これからひとりひとりに面と向かって感謝の気持ちを伝えたいと思っています。
- ありがとうございます。
ここからはオリンピック前から順番にお伺いしたいのですが、まずは今回のパリ五輪への出場が決定した後、どのような気持ちで大会へ臨まれましたか。
近代五種は男女通してオリンピックでメダルを獲得したことがなかったので、自分が歴史を変えるという気持ちでオリンピック出場を目指していました。
出場が決まってからは、メダルは絶対に獲得して帰ってくるという目標に向けて、練習の時も1日1日を死ぬ気でやると決めて、神経を張り詰めてのぞんでいました。
練習が後半になると疲労が溜まってくるので、集中力を持続させるためにONとOFFを切り替えるのが難しかったんですけど、週の後半は特にその点を意識して、逆に週の前半は疲労が溜まっていない状態でどれだけできるのかという点を意識して、ひたすら繰り返していました。
これでメダルが獲れていなかったらメンタル的にも落ちてしまうのではないかと思っていたので、今はほっとしています。
- 5種目というと練習だけでも大変そうですが、1週間はどのようなスケジュールで練習をしていたんですか。
だいたい1日に3種目か4種目を分けて練習していて、水曜日と日曜日が休みになっています。例えば午前中に馬術と水泳の練習をやったら、午後はフェンシングをするか、筋トレをするか。
次の日は午前中にランニングと射撃の練習をやって、午後は陸上のドリルか、フェンシングのレッスン(技術面の強化)をやる。
基本はそんなスケジュールを交互にやっているんですが、土曜日だけは、午前中にフェンシングを多めにやった後、午後は自主トレなので自分でメニューを選択してやっていました。
- それでは、ここからはパリ大会についてお伺いしたいのですが、まず準決勝はB組1位で決勝進出を決めました。最後のレーザーランで、韓国のウンテ選手とハイタッチしながらゴールしていましたが、あの時はどういうお気持ちだったんですか。
準決勝は1位通過すると決めていたんです。
自分が1位で走っている時に、2位が韓国のウンテ選手だとわかっていたのでウンテ選手に対して一緒に戦えている感謝を伝えたいという気持ちと、会場を盛り上げたいという気持ちから、一緒にハイタッチをしてゴールをしました。
また日本から配信を見てくれている人たちに対して、近代五種のすばらしさを伝えるために話題性のあることをしよう、という考えもありました。
近代五種は自分が相手と戦って勝つだけじゃなくて、リスペクトがあるというところも見せたいと思って、ハイタッチをしました。
- ウンテ選手とはもともと仲が良かったんですか。
大会の時などに、よく話しますね。特にフェンシングの時に「今回どうだった?」「こっちは良かったよ!ウンテは?」みたいな話をする選手の1人です。
- ウンテ選手との間隔が狭すぎて写真判定になったというニュースが日本では話題になっていたので、佐藤選手の思惑通りですね!(笑)。
それではここからは決勝大会についてお伺いしたいと思います。まずはフェンシングに関して232点の6位という素晴らしいスタートでしたが、こちらはいかがでしたか。
最後まで自分を信じて戦うことができたなと思っています。
また自分のやってきたことが間違っていなかったなと感じました。
フェンシングは、山田優君(東京オリンピック フェンシング エペ団体金/パリオリンピック フェンシングエペ団体銀)のおかげだと思っています。
山田君が体育学校で一緒だった時から、練習を一緒にさせていただく機会があったんですが、オリンピックの出場枠を取るアジア大会の前くらいから山田君が拠点としているところで一緒に練習させてもらったり、あとはフェンシングだけの合宿に参加させてもらったり、それがすべて活きてきているなという感じで。
しかも最後の最後に山田君が自分の団体戦が終わった翌々日なのに、近代五種の練習会場まで来て一緒に練習をしてくれて。それで良い感覚を取り戻してオリンピックを迎えられたなと思っています。
フェンシングの結果に関しては、山田優君に本当に頭が上がらないです。
- 続いては馬術に関してお伺いできればと思います。馬術に関しても素晴らしい結果でしたが、こちらもお世話になった方がいたとお伺いしています。
北海道のノーザンホースパーク楠木先生のおかげで、準決勝、決勝共に300点満点を獲得することができました。
楠木先生をはじめ、ノーザンホースパークの皆さんとの出会いは実は今年からなんです。
本当はもっと前から行けたら良かったんですが、時間の都合などで行けなかったので、今年初めて「合宿で行かせて頂いても良いですか」ということでお伺いさせていただきました。
実際に行ってみたら、自分と内田選手の中で「この人なら近代五種の馬術を支えてくれる」っていうか、「ここからもっとスキルアップさせてくれる人だ」という確信ができました。
楠木先生をはじめノーザンホースパークの皆さんと団結できたと感じたので、最終調整としてオリンピックの直前にも1泊2日でお伺いさせていただきました。
この最後の1泊2日があったからこそ、自分は2回とも満点で帰ってくることができましたし、内田選手も1つバーを落としただけで帰ってこられたので、本当に頭が上がらないです。
現地からも、日本が夜中にも関わらず、電話で「カーブが難しいから、もう少し外側に膨れて入った方が良いよ」とか「歩幅が狭い馬だから、元気よく行こう」とか、的確にアドバイスをくれたのが楠木先生だったので、そのアドバイスを信じて取り組みました。
自分たちもさすが5種目やっているだけあるなと思ったんですが、そのアドバイスをすんなり試合でもできて良かったです。
- 馬は抽選だと思いますが、試合前には「この馬がいいな」とか思いましたか。
人間と一緒で全然違うので「この馬だと相性が良さそうだなとか」はあるんですけど、当たった馬に関しては愛着を持って接しようと思っていました。
その馬には20分間のアップと1分間くらいの試合でしか乗れないので、どれだけ感謝を伝えることができるのかということを意識して乗っていました。
競技を終えた今は、今回の馬は準決勝も決勝も最高の馬だったなと思っています。
すごく相性も良かったですし、馬の良いところだけを引き出せたかなと思います。
自分も楽しかったんですけど、馬も楽しそうに飛んでくれていたんで、本当に馬術って素敵な種目だなって思いました。
- 続いて水泳についてお伺いできればと思っています。
今回、作戦通りに泳ぐことができたとお伺いしていますが、どんな作戦だったんですか。
世界選手権の時と泳力に差がかなりあって。
世界選手権の時は陸上に力を注いでいたんで、水泳は遅かったんですよ。
オリンピックの時は水泳にも力を入れていたので「世界選手権の時に全力で泳いで出したタイムを、オリンピックでは楽に泳いで出すことができたら、レーザーランに体力を温存できるな」と思っていました。
他の選手は水泳も結構とばしていたので速い人とは7秒差くらいついちゃったんですけど、自分はレーザーランに力を注いでたんで、それでも全然怖くなくて、体力を温存しながら自分の泳ぎができたなと思っています。
レーザーランの時に周りの選手の体力がなくなっているのを見て「やっぱりな」と思いました。
- パリ五輪は競技時間全体を短くする目的で、これまでの大会よりも競技間のインターバルが短くなっていますが、そういった作戦を立てられていたんですね。
それでは最後のレーザーランについてお伺いしたいんですが、今回特に射撃が素晴らしかった印象でしたが、ご自身ではレーザーランを振り返るとどのような印象でしたか。
あそこまで射撃が安定したのは自分の中では珍しくて。
これまでは4シリーズ撃つ中で、だいたいどこか1つは時間がかかっちゃうというイメージがあったんですが、自分の集大成を見せたいという気持ちからスタート前に何も怖くない気持ちになりました。
いつもだったら試合中に周りの選手を見ながら「この人、次の射撃当てるんだろうな」と思ってしまい自分が崩れるということがあったんですが、今回はむしろ逆で。
自分は何も怖くなかったので、自分の競技に集中することができていました。ただ隣にいる韓国のウンテ選手は「やばい、佐藤が当てている」って思っていたと思いますし、自分より体力が残っていなかったんできつかったと思います。
心理戦を自分が優位な状態でレースを進められたことが良かったです。
また韓国の選手だけじゃなくて、優勝したエジプトのエルゲンディ選手やその他の選手も「まさかこいつが来るのか」って思っていたと思うんです。
日本の選手って近代五種では勝てないと思われているので、「4番スタートでも12番くらい、最悪の場合には最下位まで自然と落ちるだろう」って誰もが思っているんです
だからこそ「誰にも止められない俺の集大成を見せてやる」っていう気持ちで最初から最後までできたし、自分を褒めたいですね。
ラスト200メートルくらいは本当に体力が残っていなくて、脚も上がらない状態だったんですけど、みんなの応援があったから一歩一歩足が前に出て、最後まで走ることができたというのが自分の中では印象深いです。
ゴールテープをきったときは、本当に叫ぶ力も無かったんで、寝転がってしまい、かっこいい姿は見せられなかったんですけど、すべてを出し切って獲れたメダルだったんで、最後は感謝の気持ちでした。
表彰台では正直泣く予定はなかったんですけど、支えてくれた方々の顔が一瞬でぶぁ~っと溢れてきて思わず涙が出てしまったんですが、今はちょっと恥ずかしいです(笑)。
- 表彰台のシーンは本当に感動的だったので、多くの方が共感されたと思います。
それではメダル獲得後についてお伺いしたいんですが、まずはどなたにご報告されたんですか。
終わって最初に電話をしたのは母親でした。
親父は闘病中で電話ができない状態なので、代表して母親に「メダルやっと獲れたよ、歴史変えたよ」というのを伝えました。
自分だけじゃなくて、家族がほっとしていて、テレビ電話ですごくいい笑顔を見せてくれたので、良い報告ができて良かったなと思いました。
その次には奥さんから「緊張して最後のゴールテープを切るまでドキドキだった」と言われたんですが、同時に「面白い試合だった」と言ってくれました。
自分的には近代五種はきつい競技なんですけど、ここまで面白い競技は他にないと思っているので、奥さんが面白いって言ってくれるなら間違いないなって思って、嬉しかったです。
- 日本に帰国したばかりですが、ご家族にはお会いできましたか。
昨日の夜に家へ帰ったんですが子供たちは寝ちゃってたんで、今日の朝久々に会えました。
事前の合宿を含めると約1か月間離れていたので、自分のことを忘れていないか心配だったんですけど、子供たちがすごい恥ずかしがっていて、それもまたかわいいな、と(笑)。
あらためて頑張ってよかったなと感じました。
さみしい思いをさせたし、奥さんにも迷惑をかけちゃったんですが、メダルを獲れたことが恩返しに繋がるかなと思っています。
- この後、ゆっくりされるとは思うんですが、何かしたいこと等はありますか。
奥さんのだし巻き卵が今日の夜に食べられるので、だし巻き卵と美味しいお酒でまずはゆっくりしたいと思います。
2歳の娘と0歳の息子がいるんですが、娘が公園で遊ぶのが大好きなので、家族で公園に遊びに行ったり、美味しいものを食べたり、っていう普通の暮らしが自分にとっての最大のリフレッシュになるので、迷惑をかけた分一緒に過ごしたいと思います。
- ではここからは、今後についてお伺いします。近代五種は今回のオリンピックをもって、馬術からオブスタクルに種目変更がありますが、今後についてはどのように考えていますか。
オリンピック前に怪我をしたくなかったので、オブスタクルの練習はオリンピックが終わってから手を付けようと思っていたので、1回家族の時間を大事にした後に、気持ちが整ったらオブスタクルの練習を開始したいと思います。
オブスタクルは初心者ですが、逆にのびしろしかないので、しっかりそこでも強くなって日本を引っ張っていきたいなと思います。
また今後は、自分だけではなく、日本の競技人口を増やしながら、自分より強い選手をどんどん出せるように所属の垣根を越えて、後輩たちにアドバイスをしていければと思っています。
- 競技人口というところでは、今回のメダル獲得によって、興味を持っていただいた方も多くいるかと思いますが、その方々にメッセージがあればお願いします。
近代五種はキング・オブ・スポーツと呼ばれているだけあって、見た目はかっこいいんですが、中身は本当にきついスポーツです。
ただ、やることによって自分の人間性が高められたり、一種目がだめでも残りの四種目で挽回できるっていうあきらめない心が学べたりするスポーツだと思います。
興味を持っていただいたことによって近代五種を始める人が増えて、みんなで日本を盛り上げていけたらいいなと思っています。
- それでは最後に、応援してくださった方にメッセージを頂ければ幸いです。
本当にみんなの熱い応援とサポートには心から感謝しかなくて、メダルを獲れたのはみんなの力であり、みんなで勝ち取ったメダルだと思っています。
今後とも近代五種をどうぞよろしくお願いいたします!
(2024/8/15 インタビュー:中川)